
2026年2月版|米国株のバリュエーション分析で見る市場の二極化と注目銘柄の現状

導入文
米国株式市場を見ていると、「どの銘柄が今、本当に適正な価格なのだろう?」と疑問に感じることはありませんか。2026年2月現在、市場では極端な二極化が進んでいます。AI関連銘柄には過熱感が見られる一方で、実績のある優良企業が思いのほか低い評価を受けているケースも目立ちます。
今回の記事では、米国の投資系YouTubeチャンネル「Everything Money」で取り上げられた6つの銘柄について、バリュエーション(企業価値評価)の視点から徹底的に分析します。株価が割安なのか割高なのか、企業の本質的な価値と現在の市場価格にどんなギャップがあるのかを、わかりやすく解説していきます。この記事を読むことで、ご自身で銘柄を評価する際の視点や考え方のヒントが得られるはずです。
2026年2月の米国株市場|極端な二極化が進む理由とは
歴史的な高評価水準にある市場全体
2026年2月時点の米国株式市場は、全体として見ると歴史的な高評価局面にあります。S&P500指数の 「シラーPER」 (過去10年間の平均利益をベースにした株価収益率)は30倍を超える水準で推移しており、これは過去100年間で見ても上位10%に入る高い数字です。
シンプルに言えば、市場全体が「企業の利益に対して高い値段がついている」状態なんですね。これは投資家の期待が大きい証拠でもありますが、同時に「期待通りにいかなかったときの下落リスク」も高まっていることを意味します。
個別銘柄レベルでは極端なミスプライシングが発生
ただし、市場全体が高評価だからといって、すべての銘柄が割高というわけではありません。むしろ興味深いのは、個別銘柄レベルで見ると著しい 「ミスプライシング」 (適正価格からのズレ)が発生していることです。
具体的には次のような現象が起きています。
「完璧な成長を織り込んだ株価」のリスク
一部のAI関連銘柄や成長株では、将来の完璧な業績成長がすでに株価に反映されています。このような銘柄は、ほんのわずかな業績の鈍化や予想の下方修正で、20%以上も下落する事例が頻発しているのです。
「ニュースが株価に追随する現象」
株価が下がった後に悪材料が注目され、さらなる下落を招くという悪循環も見られます。逆に、本質的には優良な企業でも、一時的な不安材料で市場から見放されているケースもあります。
バリュエーション規律の重要性
こうした環境だからこそ、 「バリュエーション規律」 が重要になります。どんなに素晴らしい企業でも、買値を誤ってしまえば長期的なリターンは悪化してしまいます。投資の神様として知られるウォーレン・バフェット氏も「企業の質と投資の質は別物」と繰り返し語っています。
良い企業を見つけることも大切ですが、それを適正な価格で買うこと、そして自分なりの価値評価の基準を持つことが、長期的な投資成功への鍵となるのです。
市場で過小評価されている可能性がある3銘柄の詳細分析
AMD|半導体分野での挑戦者の現状
基本情報と最近の動き
AMD(Advanced Micro Devices) は、CPUやGPUを製造する半導体メーカーです。2026年2月時点の株価は約216ドルで、時価総額は3,550億ドル。PER(株価収益率)は約60倍という水準です。直近では決算発表後に株価が17%も急落し、市場の注目を集めました。
業績の実態はどうなのか
AMDについては「データセンター収益が年60%成長」という華々しい数字が語られることがありますが、これは一部のセグメント(事業部門)の数字です。会社全体で見ると、2025年通期の売上は約285億ドルで前年比18%の成長、2026年予想は約330億ドルで16%成長と、やや落ち着いた成長率になっています。
特に注目すべきは 「データセンターGPU」 の分野です。AI処理に使われる高性能なGPU市場で、AMDは年間50億ドルから100億ドル規模への拡大を目指しています。
利益率については、粗利益率が48%、営業利益率は約12%で改善傾向にあります。 「フリーキャッシュフロー」 (企業が自由に使えるお金)は2024年の55億ドルから2026年には70億ドルへの増加が予想されています。
懸念すべきポイント
一方で、投資家が注意すべき点もあります。
まず 「株式の希薄化」 です。これは従業員への報酬として株式を発行することなどにより、発行済み株式数が増えてしまう現象です。AMDでは過去5年で発行済株式数が33%も増加しており、これは既存の株主にとって1株当たりの価値が目減りすることを意味します。
また 「資本効率」 の指標であるROIC(投下資本利益率)が3~4%と、競合のNvidia(50%超)と比べて大きく劣っている点も気になります。
競争環境も厳しく、AI用GPU市場ではNvidiaが80%以上のシェアを維持しており、AMDは追随に苦戦しているのが現状です。特にソフトウェアエコシステム(開発環境やツール群)の充実度で大きな差があります。
AMDの強みも見逃せない
もちろん強みもあります。データセンター向けCPU市場では、Intelから着実にシェアを奪っており、台湾の半導体製造大手TSMCの最先端プロセスを活用した技術競争力も持っています。
現在の株価216ドルは、楽観的なシナリオでもやや割高な水準と見られています。ただし、Nvidiaの対抗馬としてのポジションが確立されれば、高い評価も正当化される可能性は残されています。
PayPal|フィンテック企業の再生機会
劇的な株価下落の背景
PayPal はオンライン決済サービスを提供するフィンテック企業です。2026年2月時点の株価は約41ドルですが、これは2021年の高値310ドルから実に87%も下落した水準です。時価総額は約450億ドル、PERは約15倍、 「フリーキャッシュフロー利回り」 (時価総額に対するフリーキャッシュフローの割合)は12%を超えています。
「衰退」は本当なのか?
興味深いのは、2021年に株価が310ドルだった時よりもフリーキャッシュフローは実際には改善しているという事実です。
具体的な数字を見てみましょう。
- フリーキャッシュフロー:2021年の48.9億ドル → 2024年の55.7億ドル(14%増加)
- 売上高:254億ドル → 329億ドル(30%増加)
- アクティブアカウント数:3.77億 → 4.32億
つまり、事業自体は成長しているにもかかわらず、株価は大きく下落しているのです。
成長率の鈍化という現実
ただし、重要な変化もあります。それは 「成長率の鈍化」 です。
売上成長率は2021年の18%から2024年には8%まで減速し、取引高の成長率も2桁成長から1桁台へと鈍化しています。競争環境も厳しくなっており、Apple PayやGoogle Payといったテック大手の決済サービス、Stripeなどの法人向け決済サービス、さらに「後払い決済」市場ではAffirmやKlarnaといった新興企業との競争も激化しています。
経営陣の不安定性も懸念材料です。2026年3月にCEOが交代しますが、これは4年で3人目となり、戦略の一貫性が欠如しているのではという懸念の声もあります。
PayPalの真の価値はどこにあるのか
それでも、PayPalには見逃せない価値要因があります。
Venmoの収益化余地
Venmo(ベンモ)は月間アクティブユーザーが9,000万人規模に達する個人間送金アプリです。現在の収益化率はまだ低く、クレジットカードや投資商品への展開余地が大きいと見られています。
マーチャントサービスの安定性
中小企業向けの決済処理では強固なポジションを持っており、解約率は業界最低水準を維持しています。
積極的な自社株買い
過去3年で発行済株式の20%を削減しており、フリーキャッシュフローの大部分を株主還元に充当しています。これは1株当たりの価値を高める効果があります。
PayPalの現在価格は、事業の本質的な価値と比べて明らかに低い水準にあると見る専門家もいます。ただし「安いけれど成長しない株」というリスクもあるため、新CEOの就任後に戦略がどう明確化されるかを見守る必要があるでしょう。
Adobe|AI脅威論は本当に正しいのか
大幅下落の背景にあるAI懸念
Adobe はPhotoshopやIllustratorなどのクリエイティブソフトウェアで知られる企業です。2026年2月時点の株価は約258ドルですが、これは過去の高値699ドルから63%も下落した水準です。時価総額は約1,150億ドル、PERは23倍、フリーキャッシュフロー利回りは9%です。
株価下落の大きな理由は 「AI脅威論」 です。ChatGPTなどの生成AIが登場したことで、「もうAdobeのソフトは必要なくなるのでは?」という懸念が市場に広がったのです。
AI脅威論は誇張されている可能性
しかし、実際のデータを見ると、AI脅威論は誇張されている可能性が高いことがわかります。
収益への影響を見てみましょう。
- フリーキャッシュフロー:2021年の68億ドル → 2024年の98億ドル(44%増加)
- 売上高:159億ドル → 214億ドル(35%増加)
- 2025年のガイダンス(会社予想):売上成長9~11%を維持
AIが脅威と言われながらも、Adobeの業績はむしろ加速しているのです。
AI機能の収益化に成功
Adobeは 「Adobe Firefly」 という独自の生成AI機能を2024年に商用化し、Creative Cloud(月額制のソフトウェアサービス)に統合することで、価格転嫁にも成功しています。企業顧客の利用率も向上しており、AIを脅威ではなく収益機会に変えつつあります。
CanvaやFigmaといった競合サービスも話題になりますが、これらは実は異なる市場セグメント(Canvaは非プロ向け、Figmaはウェブデザイン特化)をターゲットにしています。プロフェッショナル市場でのAdobeの支配的地位は依然として揺るぎません。
実際の懸念材料とは
もちろん、すべてが順調というわけではありません。
2023年にAdobeはUI/UXデザインツールのFigmaを200億ドルで買収しようとしましたが、規制当局の反対により破談となりました。破談料として10億ドルを支払う羽目になり、UI/UXデザイン市場での成長機会を逸失してしまいました。
また、AI開発への投資増加により、短期的には営業利益率が35%から30%台前半へと低下する圧力もあります。
Adobeの構造的な強み
それでも、Adobeには強固な競争優位性があります。
スイッチングコストの高さ
PhotoshopやIllustratorの操作に習熟するには数年かかります。企業のワークフロー(業務の流れ)にも深く統合されているため、他のソフトに乗り換えるコストは非常に高いのです。
ネットワーク効果
Adobeのファイル形式(.psd、.aiなど)が業界標準となっており、クリエイター教育市場でも圧倒的なプレゼンスを持っています。
価格決定力
年5~10%の値上げを継続的に実施できる価格決定力も持っています。これは顧客にとってAdobeのソフトが生産性向上に不可欠であることの証明でもあります。
現在の株価258ドルは、企業の本質的な価値と比較すると明らかに割安圏にあるとの見方が多くあります。AI脅威論が後退すれば、12~18ヶ月で400~500ドルへのリバウンド(回復)もあり得るシナリオと考える専門家もいます。
高い評価が続く3銘柄|割高感の検証
Netflix|成長は維持も割高感が残る
基本情報と不透明要因
Netflix は世界最大級の動画配信サービスです。2026年2月時点の株価は約681ドルで、直近の高値1,010ドルから約33%下落しています。時価総額は2,900億ドル、PERは33倍です。
現在、Netflixはワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーの買収を検討していると報じられており、この不透明感も株価に影響しています。
業績は順調に推移
業績面を見ると、Netflixは順調に成長を続けています。
- 2024年売上:389億ドル(前年比13%増)
- 2025年予想:437億ドル(12%増)
- 会員数:2.82億(広告付き会員が急増中)
- フリーキャッシュフロー:2024年の90億ドル → 2026年予想120億ドル
なぜ「まだ高い」と言われるのか
それでも「割高」との評価が出る理由は、バリュエーションの高止まりです。
PER33倍は、成長率12%の企業としてはかなり高い水準です。フリーキャッシュフローで見ても、時価総額がフリーキャッシュフローの40倍という数字は歴史的に見て高水準なのです。競合のDisneyのPERが20倍程度であることと比較しても、Netflixには高いプレミアム(上乗せ評価)がついていることがわかります。
ワーナー買収のリスク
さらに懸念されているのが、ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーの買収です。もしこれが実現すれば、Netflixは800億ドル超の負債を引き受ける可能性があります。
Netflixの強みは、自社でコンテンツを作ったりライセンス契約を結んだりする 「軽資産モデル」 (大規模な設備投資が不要なビジネスモデル)にあります。しかし、映画スタジオや放送局などの資産を持つワーナーを買収すれば、この強みから逸脱することになります。統合リスクや経営資源の分散も懸念されます。
Netflixの成長ドライバー
ポジティブな要因もあります。
広告事業の成功
広告付きプランの会員が4,000万人を突破し、広告収益は2026年に30億ドル規模へ成長すると予想されています。Netflixの広告単価(CPM:1,000回表示あたりの価格)は40~60ドルと高く、収益性の高い事業になりつつあります。
コンテンツROIの改善
「イカゲーム」や「ウェンズデー」などのヒット作の成功率が向上しており、コンテンツ投資に対するリターンが改善しています。
国際展開の余地
インドや東南アジアでは、低価格プランによって会員獲得が加速しており、まだ成長余地が残されています。
Netflixは優良企業ですが、現在の株価水準では新規に買うには慎重な判断が必要と見られています。
Palantir|極端に高いバリュエーション
異常な評価水準
Palantir はビッグデータ分析プラットフォームを提供する企業です。2026年2月時点の株価は約134ドルで、高値207ドルから35%下落しています。時価総額は3,440億ドル、そして驚くべきことにPERは 305倍 という異常な高評価です。
売上成長率は40%超と素晴らしいのですが、それでもこのバリュエーションは説明が難しい水準です。
業績は驚異的に成長
業績自体は確かに素晴らしいものです。
- 2024年売上:29億ドル(前年比27%増)
- 2025年予想:46億ドル(59%増)
- 政府部門売上:17億ドル(33%増)
- 商業部門売上:29億ドル(70%増)
政府機関向けのデータ分析や、民間企業向けのAIプラットフォームが高い成長を見せています。
「狂気」の領域にあるバリュエーション
しかし、バリュエーションの観点から見ると、極めて高い評価であることは否定できません。
PSR(株価売上高倍率) という指標で見ると、Palantirは118倍です。これは「売上高の118年分の時価総額がついている」ことを意味します。通常のソフトウェア企業の平均は5~15倍程度ですから、いかに高いかがわかります。同じAI企業のC3.aiでさえ15倍程度です。
株式希薄化も深刻で、従業員への株式報酬により発行済株式数が31%も増加しており、今後も継続する見込みです。
調整後の営業利益率は38%と高いのですが、 「GAAP利益率」 (会計基準に基づく正式な利益率)はわずか3.8%にすぎません。株式報酬を除外するかどうかで利益が大きく変動するのです。
なぜこんなに高い評価なのか
それでも高い評価がついているのには理由があります。
AI投資ブームの象徴
「AI」「ビッグデータ」といったバズワード(流行語)効果により、投資家の期待が集まっています。2024年にS&P500に採用されたことで機関投資家の買いも入り、いわゆる 「ミーム株」 (SNSなどで話題になり、実態以上に買われる株)的な側面もあります。
ユニークなビジネスモデル
政府・防衛部門では独占的な地位を持ち、データ統合プラットフォームとしての優位性があります。顧客1社当たりの収益も、580万ドルから1,100万ドルへと急拡大しています。
真のリスクは期待の修正
最大のリスクは 「過度な期待の修正」 です。成長率40%でも現在のバリュエーションを正当化することは困難で、わずかな減速でも株価が半減するリスクがあります。
競合の台頭(Snowflake、Databricksなど)や、Microsoft、Googleといった大手IT企業の参入も脅威です。また、政府契約への依存度が高いため、政治リスクやプライバシー懸念による逆風の可能性もあります。
Palantirは革新的な企業ですが、現在の株価水準は企業の本質的価値を大きく上回っている可能性が指摘されています。
Google(Alphabet)|安定成長の優良株も微妙な価格帯
財務は極めて健全
Google(持株会社名はAlphabet) は検索エンジン、YouTube、Androidなどを展開する巨大テック企業です。2026年2月時点の株価は約195ドル、時価総額は2.48兆ドル、PERは30倍です。フリーキャッシュフローは年間735億ドルという巨大な資金創出力を持っています。
財務の健全性は抜群です。
- 2024年売上:3,550億ドル(前年比13%増)
- 営業利益率:32%(過去最高水準)
- 現金:1,130億ドル(純現金ベース)
- 資本支出:500億ドル(AI投資加速中)
AI投資は重荷なのか
懸念されているのは、AI投資による短期的なマージン(利益率)への圧力です。
資本支出(設備投資)は2023年の320億ドルから2024年には500億ドルへと急増しています。これはデータセンターやTPU(GoogleのAI専用チップ)への投資です。フリーキャッシュフローの68%を設備投資に充当しているため、株主還元の余力が減る懸念があります。
しかし、収益化も同時に進んでいます。
- Google Cloud:410億ドル(29%増)で営業黒字化を達成
- 検索広告:2,080億ドル(12%増)、AI機能統合でクリック率向上
- YouTube:500億ドル(13%増)、ショート動画の収益化に成功
Googleの構造的な強み
Googleには強固な 「モート」 (競争優位性、経済的な堀)があります。
検索の圧倒的支配
世界の検索市場シェアは91%で、1日に90億回もの検索クエリ(検索リクエスト)が処理されています。ChatGPTなどの影響は限定的で、検索量はむしろ増加しています。
クラウドの急成長
AWS、Azureに次ぐ3位ですが、成長率は最速です。AI推論サービスで差別化を図っており、2026年には600億ドル規模に達すると予想されています。
エコシステムの強固さ
Androidは世界のスマートフォンOSシェア72%、Chromeはブラウザシェア65%を持ち、8つのプロダクトが10億ユーザーを超えています。
規制リスクという不確定要因
一方で、規制リスクが具体化しつつあります。米国司法省(DOJ)による独占禁止訴訟が進行中で、検索市場での支配的地位が問題視されています。欧州ではデジタル市場法への対応コストもかかります。
また、GoogleはAppleに年間180億ドルを支払い、iPhoneのデフォルト検索エンジンに設定してもらっていますが、この契約が見直されるリスクもあります。
PER30倍は、成長率13%と735億ドルというフリーキャッシュフローを考慮すれば、やや高いものの許容範囲内との見方が一般的です。現在の195ドルは中立的な価格帯と言えるでしょう。
バリュエーション分析の考え方|投資家が知っておくべき視点
バリュエーション手法の基本
今回の分析で参考にした動画では 「Stock Analyzer Tool」 という分析ツールが使われていました。これは 「DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)モデル」 の簡略版です。
DCFモデルとは、企業が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いて、企業の本質的価値を計算する方法です。簡単に言えば、「この会社は今後10年間でどれだけのお金を生み出せるか」を予測し、それを今の価値に換算するのです。
この手法の長所
- 10年という長期視点で評価できる
- 楽観・中立・悲観の3つのシナリオで計算できる
- フリーキャッシュフローという実態のある数字をベースにしている
この手法の短所
- 10年後以降の価値(ターミナルバリュー)の扱いが難しい
- 割引率(資本コスト)の設定に恣意性が入る余地がある
- 競合環境の変化を織り込みにくい
補完すべき分析視点
バリュエーション分析をより精緻にするには、以下の視点も加えると良いでしょう。
相対バリュエーション
同業他社と比較して、PERやPSRが高いのか低いのかを確認します。業界平均と比べて極端に高い場合は、その理由が正当化できるかを考える必要があります。
シナリオ分析
「市場シェアが5%上がったら」「価格競争が激化したら」といった具体的なシナリオでの影響を分析します。
感応度分析
成長率が1%変化したら企業価値はどう変わるか、割引率が変化したらどうなるかといった、前提条件の変化に対する影響度を確認します。
投資判断で重視すべき3つのポイント
1. 「priced for perfection」(完璧を織り込んだ価格)の罠
期待値が高すぎる銘柄は避けるべきです。 「PEGレシオ」 (PERを成長率で割った指標)が1.5以上の銘柄は警戒が必要です。例えば、PER60倍で成長率20%なら、PEGレシオは3.0となり、かなり割高と判断できます。
2. 株式希薄化への警戒
従業員への株式報酬が売上高の20%を超える企業は要注意です。発行済株式数が増え続けると、1株当たりの価値が目減りしてしまいます。逆に、自社株買いを積極的に行っている企業は、株主還元に前向きと評価できます。
3. フリーキャッシュフローの重視
会計上の利益は、減価償却の方法や売上計上基準によって変動します。一方、 「フリーキャッシュフロー」 は実際に企業が生み出した現金ですから、より実態を反映しています。フリーキャッシュフロー利回り(時価総額に対するフリーキャッシュフローの割合)が5%以上あれば、投資妙味があると言えるでしょう。
2026年後半に注目すべき要因
投資判断に影響する可能性のある要因として、以下のポイントは押さえておきたいところです。
金利動向
FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げサイクルが継続するかどうかは、株式のバリュエーションに大きく影響します。金利が下がれば、将来のキャッシュフローの現在価値が高まるため、株価にはプラスに働きます。
AI収益化の現実
GoogleやMicrosoftが生成AI関連の売上をどの程度計上できるか、エンタープライズ(企業向け)でのAI導入ペースがどうなるかは、AI関連銘柄全体の評価に影響します。
景気後退リスク
消費者支出が鈍化すれば、PayPalのような決済サービスや、GoogleやNetflixのような広告収入に依存する企業に影響が出ます。
規制環境
米国の中間選挙や、EUのAI規制法の施行などが、テック企業の事業環境に変化をもたらす可能性があります。
まとめ|バリュエーション分析から学ぶ投資の本質
6銘柄の評価まとめ
今回分析した6つの銘柄について、簡単に整理しておきましょう。
Adobe
企業の質は高く、AI脅威論は誇張されている可能性が高い。現在の株価は本質的価値と比べて割安圏にあるとの見方が多い。
PayPal
企業の質は良好で、現在価格は明らかに割安との評価。ただし成長率鈍化というリスクもあり、新CEOの戦略次第という面も。
企業の質は極めて高いが、現在の価格はやや高めの中立圏。規制リスクを見極める必要がある。
AMD
企業の質は良いが、株価はやや割高。株式希薄化や資本効率の低さに注意。より割安な水準を待つ選択肢もある。
Netflix
企業の質は良好だが、バリュエーションは割高感が残る。ワーナー買収の動向次第でさらなる調整もあり得る。
Palantir
革新的な企業だが、バリュエーションは極端に高く、本質的価値を大きく上回っている可能性が高い。
投資の本質は「プロセスの習得」
今回の分析で最も重要なメッセージは、特定の銘柄を買うべきかどうかということよりも、 「プロセスの習得」 にあります。
企業分析のフレームワーク
収益成長率、利益率、フリーキャッシュフロー、資本効率性(ROICなど)、バリュエーションといった複数の要素を総合的に評価する習慣をつけましょう。5年、10年という長期トレンドを確認し、競争優位性(モート)があるかを評価することが大切です。
バリュエーション規律
企業の内在価値を自分なりに計算し、 「マージン・オブ・セーフティ」 (安全余裕)を確保する習慣をつけましょう。これは、計算した価値よりもさらに安い価格で買うことで、予測の誤りや予期せぬ事態に備えるという考え方です。感情的な判断を排除し、数字に基づいた冷静な判断を心がけることが重要です。
長期的視点の重要性
個別銘柄の短期的な勝ち負けではなく、ポートフォリオ全体の長期的なリターンを重視しましょう。どんなに優れた投資家でも、すべての投資判断が当たるわけではありません。分散投資によってリスクを低減し、失敗を前提とした資金配分を考えることが、長期的な成功につながります。
最後に
「有名な投資家が保有しているから」「YouTuberが推奨したから」という理由だけで銘柄を買うことは避けるべきです。他人の意見は参考になりますが、最終的には自分自身で企業を理解し、バリュエーションを計算し、リスクを評価する能力を身につけることが、長期的な投資成功への唯一の道です。
市場は常に変化し、個別の銘柄の評価も日々動いていきます。しかし、 「原則に基づく投資哲学」 は普遍的です。本質的価値を見極める目を養い、適正な価格で優良企業を買い、長期で保有するという基本原則は、時代が変わっても色褪せることはありません。
今回ご紹介した分析の視点や考え方が、皆さんご自身の投資判断を磨く一助になれば幸いです。投資は自己責任が原則ですが、正しい知識と冷静な判断力を身につけることで、より良い結果につながる可能性が高まります。継続的な学習と市場のモニタリングを通じて、投資スキルを向上させていきましょう。
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