
金・銀価格の未来予測|2025年の歴史的上昇と今後の見通しを徹底解説

はじめに:2025年の貴金属市場で何が起きたのか
「金の価格がまた最高値を更新した」というニュースを、最近よく耳にされているのではないでしょうか。実際、2025年は貴金属市場にとって歴史的な年となりました。金は53回も史上最高値を更新し、銀に至っては290%以上も上昇して1オンス117ドルに達したのです。
このような急激な価格上昇を目の当たりにして、「今からでも間に合うのだろうか」「この上昇はいつまで続くのか」と疑問に思われている方も多いはずです。また、「専門家の予測は本当に信頼できるのか」「なぜこれほどまでに価格が上がっているのか」といった根本的な疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、2025年に起きた貴金属市場の劇的な変化を詳しく分析し、主要投資銀行の価格予測をファクトチェックしながら、今後の見通しについて専門的な視点から解説していきます。中央銀行の動向、供給と需要のバランス、そして通貨価値の変化という3つの大きな視点から、金・銀価格の「真実」に迫ります。
2025年の記録的な価格上昇|何が市場を動かしたのか
金価格の驚異的なパフォーマンス
2025年、金市場は文字通り記録を塗り替える年となりました。世界金協議会(World Gold Council)の公式データによれば、金価格は年間で 55% も上昇し、なんと 53回 もの史上最高値更新を記録したのです。これは過去に例を見ない頻度です。
年間平均価格は1オンスあたり3,431ドルとなり、前年比で44%の上昇となりました。そして2025年10月には初めて4,000ドルの大台を突破し、2026年1月26日には5,000ドルという歴史的な水準に到達しました。
この上昇ペースがいかに異例かを理解するために、少し歴史を振り返ってみましょう。金価格が大きく上昇した時期として知られる1970年代でさえ、約9年間かけて2,300%の上昇を記録しました。今回の上昇相場は2023年頃から本格化しており、まだ3年程度しか経過していません。歴史的に見れば、大型の上昇相場はまだ中盤にある可能性も指摘されています。
銀価格の爆発的な上昇と調整局面
金以上に劇的だったのが銀の動きです。2025年初めに1オンス29ドル前後だった銀価格は、年末にかけて急上昇し、 290%以上 の上昇率を記録しました。2026年1月23日には初めて100ドルの大台を突破し、1月26日には史上最高値となる117.75ドルに達したのです。
しかし、その後は調整局面に入り、2026年2月中旬時点では73~90ドル程度まで下落しています。これは高値から約25~38%の調整です。金も同様に5,000ドル台から4,800ドル台へと調整しています。
このような急激な上昇後の調整は、市場参加者による利益確定の動きとして理解できます。専門家の多くは、この調整が健全なものであり、長期的な上昇トレンドが終わったわけではないと見ています。過去の貴金属の強気相場を分析すると、平均して約1,062日(約3年)続くとされていますが、現在の上昇相場は2025年10月時点で約735日であり、まだ継続する余地があるという見方もあります。
価格上昇の背景にある3つの要因
2025年の記録的な価格上昇には、複数の要因が複雑に絡み合っています。大きく分けると以下の3つに整理できます。
まず第一に、 世界的な金融不安と地政学的リスクの高まり です。ウクライナ情勢や中東の緊張など、不確実性が高まる中で、投資家たちは安全資産としての金・銀に注目しました。
第二に、 インフレ圧力と通貨価値への懸念 です。各国の中央銀行が新型コロナウイルス対策として大量の資金を供給した結果、貨幣供給量が急増しました。米国のM2マネーサプライ(広義の通貨供給量)は、2020年初めの約15兆ドルから2025年には22兆ドル超にまで増加しています。
第三に、 供給と需要のバランスの変化 です。特に銀については、産業用途での需要が急増する一方で、供給が追いついていない状況が続いています。この点については後ほど詳しく解説します。
これら3つの要因が重なり合うことで、2025年の歴史的な価格上昇が実現したと考えられています。
主要投資銀行の価格予測をファクトチェック|信頼できる数字はどれか
JPモルガンとゴールドマン・サックスの最新予測
金・銀市場について語られる際、しばしば大手投資銀行の価格予測が引用されます。しかし、これらの数字が一人歩きして誇張されることも少なくありません。ここでは、主要機関の公式予測を正確に確認してみましょう。
JPモルガン は2026年2月2日に更新した予測で、金価格について以下のように述べています。2026年末の基本予測として 1オンス6,300ドル を設定しており、2026年第4四半期の平均価格を5,055ドルと見込んでいます。さらに2027年末には5,400ドルになると予測しています。
一部で「JPモルガンが8,500ドルを予測」という情報が流れていますが、これは正確ではありません。6,000~8,000ドルという数字は、投資家の配分比率が大幅に上昇した場合の 楽観的なシナリオ として言及されているものであり、基本予測ではないのです。
ゴールドマン・サックス の目標価格は 5,400ドル です。これは公式に発表されている数字として確認できます。
その他の主要機関も軒並み強気な予測を出しており、ドイツ銀行は6,000ドル、UBSは6,200ドル、ソシエテ・ジェネラルは6,000ドル、モルガン・スタンレーは5,700ドル、シティは5,000ドルとしています。
投資銀行予測の共通点と相違点
これらの予測を見渡すと、いくつかの共通点が浮かび上がります。まず、主要機関の予測は 5,000~6,300ドルのレンジ に集中しています。現在価格(2026年2月時点で約4,870ドル)から見ると、3~30%程度の上昇余地があるという見方です。
予測の根拠として各機関が共通して挙げているのは、以下の要因です:
- 中央銀行による継続的な金購入(後述)
- 米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ観測
- 地政学的リスクの継続
- 投資家の金配分比率の上昇余地
ただし、これらはあくまで予測であり、必ず実現するとは限りません。市場環境の急変や予期せぬ経済ショックによって、予測は大きく外れる可能性もあります。過去を振り返っても、投資銀行の予測が常に正確だったわけではないことを念頭に置くべきでしょう。
銀価格の予測と不確実性
銀については、金以上に予測が難しいとされています。その理由は、銀が 産業用途と投資用途の両方で需要がある ハイブリッドな金属だからです。
JPモルガンは2026年の銀価格平均を 81ドル と予測しています。一方で、銀は金よりもボラティリティ(価格変動の激しさ)が高く、短期的には大きな上下動を繰り返す傾向があります。実際、2026年1月に117.75ドルという最高値をつけた後、わずか数週間で70ドル台まで調整したことが、その激しさを物語っています。
銀価格を左右する重要な要因として、後ほど詳しく説明する 産業需要の急増 と 供給不足 があります。特に次世代バッテリー技術における銀の使用拡大は、今後の価格に大きな影響を与える可能性があると専門家は指摘しています。
銀の供給危機|COMEX在庫枯渇と産業需要の急増
COMEX在庫の驚異的な減少が示すもの
COMEX(ニューヨーク商品取引所)は、世界最大の銀先物取引市場です。この市場における実物銀の在庫状況が、近年劇的に変化しています。
COMEX在庫は「登録在庫」と「適格在庫」の2つに分類されますが、実際に引き渡し可能な「登録在庫」に注目すると、その減少ぶりは驚異的です。2025年10月には1億6,770万オンスあった登録在庫が、2026年1月には1億350万オンスまで減少しました。わずか3ヶ月で 38%も減少 したのです。
さらに注目すべきは、2026年1月第1週だけで3,345万オンスもの引き出しがあったという事実です。これは当時の登録在庫の 26%が1週間で消失 したことを意味します。
この在庫減少が重要な理由は、先物市場における「ペーパー」と「実物」のバランスにあります。2026年3月の先物契約では、約5億2,800万オンスの銀が取引されていますが、実際に利用可能な登録在庫は1億1,300万オンス程度しかありません。つまり、先物契約は実物在庫の 約4.7倍 も存在するのです。
もし大量の契約保有者が実物での引き渡しを要求した場合、在庫が不足する「デリバリー・スクイーズ」と呼ばれる事態が発生する可能性があります。実際、2026年1月にはインドの44の貿易会社が銀のショートポジション(売り持ち)で破綻するという事件も起きています。
5年連続の供給赤字が続く理由
銀市場は2021年から供給赤字の状態が続いています。つまり、需要が供給を上回る状況が 5年連続 で続いているのです。
2025年の供給赤字は、控えめな推定で9,500万オンス、最大で1億4,900万オンスと見積もられています。2021年から2025年までの累積赤字は約8億オンスに達しており、これは年間の世界生産量にほぼ匹敵する規模です。
なぜこれほどの赤字が続いているのでしょうか。主な理由は 産業需要の急増 にあります。銀は優れた導電性と熱伝導性を持つため、様々なハイテク産業で不可欠な材料となっています。
特に需要が急増しているのは以下の分野です:
- 太陽光パネル:世界的なグリーンエネルギー転換により、太陽電池の生産が急増しています
- AI・半導体チップ製造:データセンターやAI開発の拡大により、高性能チップの需要が増加
- 電気自動車(EV):1台あたり25~50グラムの銀を使用し、EV普及とともに需要増加
- 5G通信インフラ:次世代通信網の構築に必要な電子部品に銀が使用される
固体電池革命が銀需要を一変させる可能性
銀の産業需要を語る上で、見逃せない技術革新があります。それが 固体電池 です。
2026年1月16日、権威ある科学誌「Nature Materials」に、スタンフォード大学の研究チームによる画期的な論文が掲載されました。従来の固体電池が抱えていた「クラッキング」(ひび割れ)問題を、ナノスケールの 銀コーティング によって解決したというのです。
この技術により、リチウム侵入への耐性が5倍に向上し、固体電池の実用化に大きく近づきました。実際、サムスンはすでに銀-炭素複合アノード(負極)を使用した固体電池プログラムを進めており、その性能は驚異的です:
- 1回の充電で走行距離600マイル(約965キロメートル)
- わずか9分で80%まで充電可能
サムスンはBMWと提携し、2026年後半には評価用車両への搭載を予定しています。
固体電池が本格的に普及した場合、銀需要はどれほど増加するのでしょうか。専門家の試算によれば、100kWhのバッテリーパックあたり 約1キログラム の銀が必要とされる可能性があります。
仮に世界の電気自動車生産台数が年間2,570万台(市場浸透率20%)に達し、その半分が固体電池を採用した場合、年間で約5億1,400万オンスの銀需要が発生します。これは現在の産業用銀需要の 約2倍 に相当する規模です。
もちろん、この技術が実際に大規模商業化されるかどうかはまだ不確実です。しかし、可能性として認識しておくことは重要でしょう。
通貨切り下げと「ピザのスライス」|なぜ金が価値を保つのか
M2マネーサプライの爆発的増加が意味すること
「お金を印刷する」という表現を聞いたことがあるでしょうか。これは文字通り紙幣を印刷することだけでなく、中央銀行が市場に供給する貨幣の総量を増やすことを指します。この貨幣供給量を測る指標の一つが M2マネーサプライ です。
米国のM2マネーサプライの推移を見てみましょう:
- 2006年:約7兆ドル
- 2020年初:約15兆ドル
- 2025年:22兆ドル超
20年間で約3倍に増加したことになります。特に2020年から2022年にかけては、新型コロナウイルス対策として各国政府が大規模な財政出動を行い、中央銀行がそれを支えるために大量の資金を供給しました。
ここで、わかりやすい例え話をしましょう。「ピザのスライス」の話です。
あなたの前に1枚のピザがあるとします。このピザを8スライスに切れば、1スライスは全体の8分の1です。同じピザを16スライスに切れば、1スライスは16分の1になります。ピザの総量は変わっていないのに、スライス1枚あたりの大きさは小さくなりましたね。
これが 通貨切り下げ の本質です。経済全体の価値(ピザ全体)がそれほど変わらないのに、通貨の量(スライスの数)だけが増えれば、1単位あたりの通貨の価値(1スライスの大きさ)は小さくなるのです。
この現象を数字で確認してみましょう。1971年以降、米ドルは購買力の 95%以上を失った とされています。つまり、1971年に1ドルで買えたものを、今では20ドル以上出さないと買えないということです。
金の購買力が一定である理由
一方、金はどうでしょうか。興味深いことに、金は数十年、時には数世紀にわたって 購買力を維持 してきました。
これを示す有名な例が「サヴォイ・ゴールド比率」です。ロンドンの高級レストラン「サヴォイ・グリル」での食事代を金オンスで測ると:
- 1971年:金1オンスで3人分のディナーが食べられた
- 2026年:金1オンスで14人分のディナーが食べられる
ドル建てで見れば金価格は大きく上昇しましたが、実質的な購買力で見れば、金は価値を保ち続けているのです。別の例では、1920年代に金1オンスで高級スーツ1着が買えましたが、2026年の今でも金1オンスあれば高級スーツ1着が買えます。
なぜ金は購買力を保てるのでしょうか。その答えはシンプルです。金は 印刷できない からです。
紙幣や電子マネーは、政府や中央銀行が決定すればいくらでも増やすことができます。しかし、金は地球上に存在する量が限られており、新たに採掘するには膨大なコストと時間がかかります。年間の金生産量は約3,000~3,500トン程度で、これは既存の地上在庫(約20万トン)の1.5~2%程度に過ぎません。
この「希少性」こそが、金が数千年にわたって価値の保存手段として機能してきた理由なのです。
1970年代との比較から見える教訓
現在の状況を理解する上で、1970年代の金市場との比較が参考になります。
1971年、米国のニクソン大統領は「金本位制」を放棄しました。それまでドルは金と交換可能でしたが、この決定により、ドルは金の裏付けのない「不換紙幣」となったのです。その後何が起きたでしょうか。
1971年から1980年にかけて、金価格は1オンス35ドルから850ドルへと上昇しました。これは 約2,300% の上昇です。この上昇相場は約9年間続きました。
当時の経済状況を振り返ると、高インフレ、石油危機、地政学的緊張など、現在と共通する要素が多く見られます。1980年には米国のインフレ率が14.8%に達しましたが、2022年には9.1%を記録しています。
興味深いのは、1980年の金価格850ドルを現在の物価水準に調整すると、約3,300~3,500ドルに相当するということです。つまり、2026年2月時点の金価格(約4,870ドル)は、インフレ調整後の1980年の水準を既に上回っているのです。
しかし、貨幣供給量の観点から見ると、話は変わってきます。M2マネーサプライの増加を考慮すると、1980年の850ドルは現在の8,000~1万ドルに相当するという計算もあります。この視点からは、金はまだ歴史的なピークに対して 過小評価されている 可能性があるという見方も存在します。
もちろん、歴史は単純に繰り返すわけではありません。しかし、「歴史は韻を踏む」という言葉があるように、過去のパターンから学べることは多いでしょう。
中央銀行の金購入急増|「信頼の危機」が生み出す構造変化
ロシアの外貨準備凍結が変えた世界
2022年2月、世界の金融秩序に大きな衝撃が走りました。ロシアのウクライナ侵攻を受けて、米国、EU、およびその同盟国は、ロシア中央銀行の外貨準備の 約3,000億ドル(総準備の約50%)を凍結 したのです。
これは前例のない措置でした。中央銀行の準備金は国の主権的資産であり、通常は国際法によって保護されています。しかし、この凍結措置により、「外貨準備は本当に安全なのか」という根本的な疑問が世界中の中央銀行に生じました。
特に、米国と政治的に距離がある国々や、将来的に制裁を受ける可能性がある国々にとって、この出来事は大きな警鐘となりました。ドル建て資産や米国債で外貨準備を保有することのリスクが、突然現実のものとなったのです。
では、中央銀行はどのような代替手段を考えるでしょうか。その答えの一つが 金 です。金は物理的な資産であり、特定の国の管轄下にありません。自国の金庫に保管している限り、他国に凍結されることはないのです。
中央銀行の金購入が3倍に急増
実際、2022年以降、中央銀行による金購入は劇的に増加しました。
- 2010~2021年の平均:年間400~500トン
- 2022年:1,082トン
- 2023年:1,037トン
- 2024年:1,000トン超
- 2025年第3四半期:四半期ペースで約190トン
年間購入量は従来の 約2.5~3倍 に増加しています。この傾向は一時的なものではなく、構造的な変化であると多くの専門家が見ています。
主な購入国を見てみましょう:
中国 は最も積極的な購入国の一つです。2020年から2025年にかけて350トン以上を追加購入し、総保有量は2,306.3トン(2025年第4四半期)に達しました。2024年5月までは18ヶ月連続で購入を続け、一時中断した後、2024年11月から再び購入を再開し、2026年2月時点で15ヶ月連続購入中です。
その他、 ポーランド、トルコ、インド、カザフスタン なども積極的に金を購入しています。ブラジルは2025年9~10月だけで31トンを購入し、韓国銀行も「中長期的に金購入を検討している」と公式に表明しています。
金保有比率の非対称性が示す巨大な潜在需要
中央銀行の金保有状況を見ると、国によって大きな差があることがわかります。
総外貨準備に占める金の割合を見てみましょう:
- 米国:74%(8,133トン保有)
- ドイツ:73%
- フランス、イタリア:60~70%
- 中国:推定4~8%(公式報告ベース)
- ブラジル:約3%
先進国が準備の60~70%以上を金で保有しているのに対し、新興国の多くは10%未満です。この 非対称性 は、今後の金需要を考える上で重要なポイントです。
JPモルガンの分析によれば、金保有比率が10%未満の中央銀行が全て10%まで引き上げると仮定すると、約2,600トンの追加購入が必要になります(金価格4,000ドル時)。これは現在の年間中央銀行購入量の 2.5年分以上 に相当する規模です。
中国だけを見ても、外貨準備の10%まで金比率を引き上げるには、さらに1,000トン以上の購入が必要とされています。中国の外貨準備は世界最大級ですから、この潜在需要は非常に大きいと言えるでしょう。
もちろん、すべての国が実際に10%まで引き上げるとは限りません。しかし、地政学的リスクが高まる中で、多くの国が金保有を増やす方向に動いているのは確かです。
「没収不可能な資産」としての金
中央銀行が金を選ぶ理由は、単に価値が安定しているからだけではありません。金は 物理的に没収が困難 だという特性も重要です。
外貨準備として米国債を保有している場合、その記録は電子的に管理されており、理論的には数クリックで凍結できます。一方、金地金を自国の金庫に保管している場合、物理的に奪取しない限り凍結することはできません。
この「物理的な主権」という側面が、特に地政学的リスクを懸念する国々にとって、金の魅力を高めているのです。
JPモルガンは2026年の中央銀行による金購入を800トンと予測しています。この水準が続く限り、中央銀行からの構造的な需要が金価格を下支えし続けるでしょう。
個人投資家の「配分ギャップ」|機関投資家との差
個人投資家の金配分はまだ低水準
中央銀行が積極的に金を購入している一方で、個人投資家や機関投資家の金配分はどうなっているのでしょうか。
2025年第3四半期時点で、世界の金融資産に占める金の割合は 約2.8% とされています。これは、株式、債券、オルタナティブ投資などすべての運用資産の合計に対する、金ETF、地金、コイン、先物などの金投資の比率です。
2023年には約1.8%でしたから、2年間で1ポイント上昇したことになります。確かに増加はしていますが、歴史的に見ればまだ低い水準です。
JPモルガンは、「金の運用資産残高(AUM)シェアは今後数年で4~5%まで上昇する余地がある」と述べています。わずか数%の差に思えるかもしれませんが、世界の金融資産総額は400兆ドルを超えますので、2.8%から5%への移行は、約8.8兆ドルもの資金流入を意味します。
実際、2025年には投資家の金需要が大きく増加しました。第3四半期だけで、投資家と中央銀行を合わせた需要は約980トンに達し、前年同時期と比べて50%以上増加しています。金額ベースでは約109億ドルで、前4四半期平均比で90%も増加しました。
新しいポートフォリオ理論の台頭「60-20-20」
伝統的に、バランス型の投資ポートフォリオといえば 「60-40」 でした。これは株式60%、債券40%という配分を指します。株式で成長を取り、債券で安定性を確保するという考え方です。
しかし、2022年に問題が起きました。通常、株式が下落すると債券が上昇して損失を相殺する(逆相関)はずなのですが、2022年には 株式と債券が同時に下落 したのです。これは高インフレと金利急上昇という特殊な環境下で起きた現象でした。
この経験から、新しいポートフォリオ配分として 「60-20-20」 が注目されています。これは以下の配分です:
- 株式:60%
- 債券:20%
- 金・コモディティ:20%
モルガン・スタンレーの最高投資責任者(CIO)は2025年9月に、「60-20-20戦略を支持する。金をインフレヘッジとして20%配分することを推奨する」と述べています。
過去のデータを使ったバックテスト(過去の市場データで戦略を検証すること)では、60-20-20ポートフォリオは従来の60-40と比較して、ボラティリティ(価格変動の激しさ)が低く、リスク調整後のリターン(シャープレシオ)が改善される傾向が見られます。特に高インフレ期において優位性が顕著です。
ただし、20%という配分は多くの個人にとってかなり大胆な数字です。従来の資産配分から大きく変更することには心理的な抵抗もあるでしょう。実際の配分は個々人のリスク許容度や投資目標によって異なります。
「印刷できないものを所有せよ」という原則
投資の世界では様々な格言がありますが、最近注目されているのが 「印刷できないものを所有せよ」(Own What They Can’t Print)という考え方です。
印刷できるもの(供給を無制限に増やせるもの):
– 法定通貨(ドル、円、ユーロなど)
– 政府債券
– 銀行預金
印刷できないもの(供給が物理的に制限されているもの):
– 金・銀などの貴金属
– 不動産
– 商品(石油、銅など)
– ビットコイン(供給上限2,100万枚)
前述の「ピザのスライス」の例で説明したように、印刷できるものは供給が増えれば価値が希薄化します。一方、印刷できないもの、つまり供給が制限されているものは、相対的に価値を保ちやすいという考え方です。
もちろん、これは極端な二元論ではありません。現金や預金も日常生活には不可欠ですし、政府債券も重要な投資対象です。この原則は、「資産配分のバランスを考える際に、供給が制限された実物資産も一定の割合で保有することが重要」という考え方として理解すべきでしょう。
投資家が注意すべきリスクと市場の不確実性
金・銀鉱山株の高ボラティリティ
金・銀への投資方法には、現物、ETF、そして 鉱山株 があります。鉱山株とは、金や銀を採掘する企業の株式です。
鉱山株には大きな魅力があります。金価格が上昇すると、鉱山会社の利益は価格上昇率以上に増加する傾向があるのです(レバレッジ効果)。例えば金価格が10%上昇すると、鉱山株は理論的に15~30%上昇する可能性があります。
しかし、このレバレッジは逆方向にも働きます。金価格が10%下落すれば、鉱山株は15~30%下落する可能性があるのです。
実際のボラティリティ(価格変動の激しさ)を比較してみましょう:
- 金価格のボラティリティ:年率約20~25%
- 銀価格のボラティリティ:年率約35~45%
- 金鉱株ETFのボラティリティ:年率約40~60%
- 銀鉱株ETFのボラティリティ:年率約60~80%
2026年1~2月の実例を見ると、銀価格は117.75ドルから73~90ドルへと約25~38%下落しましたが、銀鉱株ETFはさらに大きく、推定40~50%も下落したとされています。
さらに、鉱山株には金・銀価格以外のリスクも存在します:
- 操業リスク:鉱山事故、労働ストライキ、生産中断など
- 地政学リスク:鉱山所在国の政治不安や法規制変更
- コスト上昇:エネルギー価格や人件費の上昇による採算悪化
- 希釈リスク:増資による既存株主の持分希釈
- 経営リスク:M&A(企業買収)の失敗やプロジェクト遅延
これらのリスクを考えると、鉱山株は金・銀そのものへの投資とは大きく性質が異なることがわかります。
短期的な価格変動の激しさ
2025~2026年の金・銀市場を振り返ると、価格変動の激しさが際立っています。
銀は2026年1月に117.75ドルという史上最高値をつけた後、わずか3週間程度で70ドル台まで下落しました。金も5,000ドルから4,800ドル台へと調整しています。
このような急激な変動の背景には、以下の要因があります:
利益確定の動き:急激な上昇の後、投資家が利益を確定させるのは自然な行動です。特に短期的な投機家は、価格が高値圏に達すると売却する傾向があります。
証拠金要件の引き上げ:COMEX(商品取引所)は価格が急騰すると、先物取引の証拠金要件を引き上げることがあります。これにより、レバレッジをかけていた投資家が強制的にポジションを解消せざるを得なくなり、価格下落圧力となります。
テクニカル要因:多くの投資家が同じようなテクニカル指標(チャート分析)を見ているため、一定の価格帯に達すると集中的に売買が発生し、価格が急変動することがあります。
こうした短期的な変動は、長期的なトレンドとは別の要因で起きます。市場の基本的な供給・需要バランスや、中央銀行の購入トレンドなどのファンダメンタルズ(基礎的条件)が変わっていなくても、短期的には大きな調整が起きるのです。
予測の限界と不確実性
この記事では多くの専門家の予測や分析を紹介してきましたが、重要な点を強調しておく必要があります。それは、 未来の価格を正確に予測することは誰にもできない ということです。
主要投資銀行の予測でさえ、過去には大きく外れたことがあります。市場は予期せぬ出来事によって大きく動くことがあり、以下のような要因が予測を覆す可能性があります:
- 突然の経済危機や金融システムの混乱
- 地政学的状況の劇的な変化(戦争の勃発または終結)
- 中央銀行の政策の急転換
- 技術革新による需要・供給構造の変化
- 規制環境の大幅な変更
1980年の金価格を思い出してください。1オンス850ドルという最高値をつけた後、金価格は約20年間にわたって下落を続け、1990年代後半には250ドル台まで下がりました。当時、「金は終わった」と言われたものです。
しかし、2001年から新たな上昇相場が始まり、2011年には1,900ドル近くまで上昇しました。その後また調整局面に入り、2015年には1,050ドルまで下落しましたが、2020年以降再び上昇トレンドとなっています。
このように、金・銀市場には長期的なサイクルがあり、時には数年単位で調整局面が続くこともあるのです。
まとめ|金・銀市場の現状と今後の展望
検証結果の総括
この記事では、2025年の記録的な金・銀価格上昇を詳しく分析し、様々な主張や予測をファクトチェックしてきました。主な検証結果をまとめます。
確認された事実:
- 2025年に金価格は55%上昇し、53回の史上最高値更新を記録(World Gold Council確認)
- 銀価格は290%以上上昇し、117.75ドルの史上最高値に到達
- ゴールドマン・サックスの金価格目標は5,400ドル(公式予測)
- JPモルガンの基本予測は6,300ドル(2026年末)、8,000ドル超は楽観シナリオ
- COMEX銀在庫は登録在庫ベースで大幅減少(時期により38~75%)
- 銀市場は2021年から5年連続で供給赤字
- 中央銀行の金購入は年間1,000トン超に増加(従来の2.5~3倍)
- 米国M2マネーサプライは2020年の15兆ドルから22兆ドル超に増加
- 金保有比率は先進国70%台に対し、新興国は10%未満と大きな格差
注意が必要な点:
- 「中央銀行購入5倍増」は誇張。実際は2.5~3倍増
- 極端な価格予測(8,500ドルなど)は基本シナリオではなく、条件付きの楽観シナリオ
- 短期的には大きな価格調整が起きており、今後も変動は続く見込み
構造的なトレンドは継続中
短期的な価格変動はあるものの、金・銀市場を取り巻く 構造的なトレンド は依然として継続していると考えられます。
金について:
- 中央銀行による購入は一時的な現象ではなく、地政学的リスクと「信頼の危機」に根ざした構造的なもの
- 世界的な債務水準の高さと財政赤字の拡大は、長期的なインフレ圧力を示唆
- 個人・機関投資家の配分比率はまだ歴史的平均を下回っており、増加余地がある
- 多くの主要投資銀行が5,000~6,300ドルの価格目標を設定
銀について:
- 5年連続の供給赤字は継続する見込み
- AI、太陽光パネル、電気自動車など、産業需要は構造的に増加傾向
- 固体電池の商業化が実現すれば、需要は劇的に増加する可能性
- COMEX在庫の減少は、将来的な供給逼迫リスクを示唆
「印刷できないもの」の価値再評価
最も重要な洞察の一つは、 「印刷できないもの」の価値が見直されている という点です。
2020年以降の大規模な金融緩和により、法定通貨の供給量は歴史的なペースで増加しました。一方、金・銀の供給は物理的な制約により限定的です。この非対称性が、貴金属の相対的価値を高めています。
1971年に金本位制が終了して以来、法定通貨は金の裏付けを失い、各国政府と中央銀行の「信頼」だけで価値が保たれています。しかし、ロシアの外貨準備凍結のような出来事は、この「信頼」が絶対的なものではないことを示しました。
結果として、中央銀行も個人投資家も、「没収不可能で、印刷不可能な」資産としての金・銀に注目しているのです。
長期的視点の重要性
金・銀への関心が高まっている今、最も重要なのは 長期的な視点 です。
2026年1~2月の急激な価格調整が示すように、貴金属市場は短期的には非常にボラティリティが高いものです。しかし、過去の大型上昇相場を見ると、1970年代は約9年、2001~2011年は約10年続きました。現在の上昇相場はまだ約3年程度です。
歴史的パターンが示唆するのは、現在の相場がまだ中盤にある可能性です。ただし、これは将来の価格上昇を保証するものではありません。市場環境は常に変化し、予期せぬ調整や下落局面もあり得ます。
重要なのは、金・銀を短期的な投機対象としてではなく、 長期的なポートフォリオの一部 として位置づけることです。急激な価格変動に一喜一憂せず、自身の投資目標とリスク許容度に合わせた配分を維持することが賢明でしょう。
最後に:情報に基づいた判断を
この記事では、2025~2026年の金・銀市場について、客観的なデータと専門家の見解を基に詳しく解説してきました。記録的な価格上昇の背景には、中央銀行の購入増加、銀の供給不足、通貨供給量の増加、地政学的リスクなど、複数の要因が複雑に絡み合っています。
主要投資銀行の予測は概ね強気ですが、短期的な変動は大きく、不確実性も高い状況です。金・銀への投資を検討される際は、ご自身の投資目標、時間軸、リスク許容度を十分に考慮することが重要です。
貴金属市場は長い歴史を持ち、数千年にわたって人類の経済活動と共にありました。現代の複雑な金融システムにおいても、金・銀が果たす役割は決して小さくありません。この記事が、皆様の理解を深める一助となれば幸いです。
市場は常に変化します。最新の情報を継続的にフォローし、信頼できる情報源から学び続けることをお勧めします。そして何より、ご自身の判断と責任において、慎重に行動されることを願っています。
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