
ニューバランス急成長の秘密とナイキ苦戦の理由

みなさんは最近、街でニューバランスのスニーカーを履いている人を以前より多く見かけませんか?実は今、スポーツシューズ業界で大きな地殻変動が起きているんです。長年トップを走り続けてきたナイキが苦戦する一方で、ニューバランスが驚異的な成長を遂げています。2025年度、ニューバランスの売上高は前年比19%増の92億ドルに達し、5年連続で二桁成長を記録しました。この記事では、なぜニューバランスがこれほど成功し、逆にナイキが厳しい状況に陥っているのか、その背景にある戦略の違いや市場の変化を、わかりやすく解説していきます。
ニューバランスの驚異的な成長:数字が示す実力
2025年度の業績が物語る勢い
2026年2月現在、ニューバランスが発表した業績は業界内で大きな話題となっています。2025年度の売上高は 92億ドル で、前年と比べて19%も増加しました。この数字だけを聞いてもピンとこないかもしれませんが、実はこれ、ものすごいことなんです。
ニューバランスは 「年間売上100億ドル」 という目標を掲げているのですが、この成長ペースが続けば2026年末にはその大台に到達する可能性が高いと見られています。非上場企業のため詳しい財務情報は公開されていませんが、この5年間ずっと二桁成長を維持しているという事実は、同社の戦略がうまくいっている証拠と言えるでしょう。
市場全体が縮小する中での快挙
さらに注目すべきなのは、この成長が 「市場全体が伸び悩んでいる時期に達成された」 という点です。スポーツシューズ市場は2024年から2025年にかけて成長が鈍化、あるいは縮小傾向にあり、多くのブランドが売上を伸ばせない状況にありました。
つまり、ニューバランスの19%という成長率は、単に市場全体が大きくなった恩恵を受けているわけではありません。むしろ、他のブランドから顧客を奪い取っている、つまり 「市場シェアを拡大している」 ということなんです。これは、ブランドとしての魅力や製品の品質が高く評価されている証と言えます。
厳しい市場環境の中でこれだけの成長を実現できているということは、ニューバランスがブランド戦略と製品戦略の両方で優位性を確立していることを意味しています。
ナイキに何が起きたのか:戦略転換の落とし穴
直販戦略への大きな賭け
ニューバランスの成功を理解するには、業界最大手であるナイキが何に失敗したのかを知ることが重要です。ナイキは2020年前後から 「DTC戦略」 、つまり 「Direct-to-Consumer(直接消費者へ販売する)戦略」 に大きく舵を切りました。
これは簡単に言うと、従来のように小売店を通して販売するのではなく、自社の直営店やオンラインストアで直接お客さんに商品を売る、というやり方です。この戦略には一見メリットがたくさんありました。中間マージンがなくなるので利益率が上がりますし、顧客データを直接集められるため、お客さんの好みや購買行動をより深く理解できます。また、ブランド体験を完全にコントロールできるという利点もありました。
しかし、この戦略は思わぬ副作用を生んでしまったのです。
小売店から撤退した代償
ナイキが主要な小売業者、例えばメイシーズやフットロッカー、ディックス・スポーティンググッズといった大手チェーンから製品を引き上げたことで、それらの店舗に 「巨大な空きスペース」 が生まれました。そして、ニューバランスはこのチャンスを見逃しませんでした。
ナイキが去った棚スペースに、ニューバランスの製品が次々と並ぶようになったのです。実店舗の棚スペースは、今でも非常に重要なマーケティング資産です。特にスニーカーのように実際に履いてみてサイズ感や履き心地を確かめたい商品の場合、お店で目に触れる機会が増えることは、購入につながる大きな要因となります。
多くの消費者は、オンラインショッピングが普及した今でも、スニーカーを買う際には実店舗で試着したいと考えています。ナイキがその接点を自ら手放してしまったことで、ニューバランスには絶好の機会が訪れたわけです。
製品開発の停滞という問題
ナイキにはもう一つ大きな問題がありました。それは 「製品イノベーションの鈍化」 です。直販戦略に力を入れすぎたあまり、製品開発への投資が相対的に減少したのではないかという指摘があります。
一方、ニューバランスは技術革新に積極的に投資を続け、性能面でもデザイン面でも消費者の心をつかむ製品を次々と生み出していきました。結果として、「ナイキよりもニューバランスの方が魅力的」と感じる消費者が増えていったのです。
ニューバランスが成功した理由:多角的な戦略の勝利
時代の流れを読む力
ニューバランスの成功には、いくつかの重要な要因があります。まず一つ目は、 「文化的なトレンドを的確に捉えた」 ということです。
近年、1990年代への懐かしさを感じさせるファッションが若者の間で人気を集めています。その中でも特に注目されたのが 「ダッドシューズ」 と呼ばれるスタイルです。これは、お父さんが履いていそうな、ちょっと野暮ったい厚底のスニーカーのこと。一見すると「ダサい」とも思えるこのデザインが、逆に新鮮でおしゃれだと受け入れられたのです。
ニューバランスは、このトレンドを早い段階から見抜いていました。「チャンキースニーカー」と呼ばれる厚底デザインの製品を市場に投入し、特にTikTokなどのSNSで大きな話題となりました。これにより、若い世代にもニューバランスの魅力が広がっていったのです。
限定コラボレーションでブランド価値を高める
ニューバランスのもう一つの巧みな戦略が、 「有名デザイナーやストリートウェアブランドとのコラボレーション」 です。限定商品を戦略的に展開することで、いくつもの効果を生み出しました。
まず、ブランドイメージが高級化しました。「誰でも買えるスニーカー」ではなく、「こだわりのある人が選ぶブランド」という位置づけを確立できたのです。また、ファッションに敏感な層の関心を引きつけることにも成功しました。さらに、限定品という希少性が「欲しい」という気持ちを刺激し、需要を高める効果もありました。
CEOのジョー・プレストン氏は、ニューバランスを 「スポーツ・ファッション・音楽が交わる場所」 に位置づけるという戦略を掲げています。コラボレーション戦略は、まさにこのビジョンを体現するものだったのです。
バランスの取れたチャネル戦略
ニューバランスの最も賢明な判断の一つが、 「小売店での販売を維持しながら、直販も強化する」 というバランス戦略です。
ナイキのように小売店から完全撤退するのではなく、ニューバランスは小売パートナーとの関係を大切にしながら、同時に自社の直営店やオンラインストアも成長させています。プレストンCEOは、小売パートナーが持つ 「幅広い顧客へのリーチ力」 を尊重しつつ、直販ビジネスを通じて消費者と直接対話し、トレンドをいち早くキャッチする能力を高めていると語っています。
この両面作戦は、ナイキの失敗から学んだ結果と言えるでしょう。どちらか一方に偏るのではなく、それぞれの長所を活かすアプローチが功を奏しているのです。
スポーツシューズ市場の大きな変化
ブランドへの忠誠心が薄れている
ニューバランスの躍進は、市場における重要な変化を示しています。それは 「消費者のブランドへの忠誠心が以前より低くなっている」 ということです。
昔なら「自分はナイキ派」「アディダス一筋」という人が多かったのですが、今は違います。長年ナイキを愛用してきた人でも、製品に不満があったり、他のブランドにより魅力的な商品があれば、迷わず乗り換えるようになっています。
この変化が意味するのは、過去のブランドイメージや実績だけでは通用しない時代になったということです。常に良い製品を作り続け、お客さんとの関係を大切にし続けなければ、すぐに他のブランドに顧客を奪われてしまいます。逆に言えば、新参者にもチャンスがある市場になったとも言えるでしょう。
若い世代の価値観に合わせる
特に若い世代、いわゆるZ世代やミレニアル世代は、親世代とは違った価値観で商品を選んでいます。彼らが重視するのは以下のような点です。
まず 「本物であること」 。表面的なマーケティングではなく、ブランドの姿勢や歴史に共感できるかどうかを大切にします。次に 「ストーリー」 。その商品にどんな背景や物語があるのかに興味を持ちます。そして 「SNS映え」 。InstagramやTikTokで写真や動画を投稿した時に、おしゃれに見えるかどうかも購入の決め手になります。
ニューバランスは、120年以上の歴史を持つ老舗ブランドでありながら、こうした若い世代の価値観に合ったマーケティングを展開し、 「クールなブランド」 として認識されることに成功しました。これは簡単なことではありません。
市場の多様化が進む
ニューバランスの成功は、他の中堅ブランドにも希望を与えています。「オン(On)」や「ホカ(HOKA)」といったランニングに特化したブランドも急成長しており、市場には様々な選択肢が登場しています。
消費者にとっては選択肢が増えて嬉しい状況ですが、企業にとっては競争が激しくなっているということでもあります。大手ブランドだからといって安泰ではなく、小さなブランドでも優れた製品と戦略があれば成功できる、そんな時代になっているのです。
非上場であることの強み:長期的な視点
短期的なプレッシャーからの解放
ニューバランスには、他の大手ブランドとは違う大きな特徴があります。それは 「非上場企業である」 ということです。ナイキやアディダスは株式市場に上場していますが、ニューバランスは上場しておらず、年に一度簡単な業績報告をするだけです。
この体制には重要な利点があります。上場企業は3ヶ月ごとに業績を報告しなければならず、常に短期的な数字を気にする必要があります。しかしニューバランスは、そうしたプレッシャーから解放されています。そのため、すぐに結果が出なくても、長期的に意味のある投資判断ができるのです。
例えば、新しい技術の研究開発やブランド構築には時間がかかりますが、四半期の数字を気にせずにじっくり取り組めます。また、詳しい情報を公開しないため、競合に対して戦略を明かさなくて済むという利点もあります。
株式公開の予定はなし
現時点で、ニューバランスが株式を公開する(IPO)計画はないようです。好調な業績により十分な収益を上げているため、外部から資金を集める必要がありません。また、創業家が会社を保有し続けており、売却する動機も見当たりません。
非上場のまま、自分たちのペースで成長を続ける。この戦略が、ニューバランスの成功を支えている一つの要因と言えるでしょう。
今後の展望:100億ドルへの道のり
目標達成は現実的か
ニューバランスが掲げる 「年間売上100億ドル」 という目標は、かなり現実味を帯びてきています。2025年度が92億ドルで、成長率19%をキープできれば、2026年末には達成できる計算です。
ただし、この成長ペースを維持できるかどうかについては、慎重に見ていく必要があります。市場規模には限界がありますし、ナイキなどの競合が戦略を見直して反撃してくる可能性もあります。また、景気が悪化すれば消費者の財布の紐も固くなるでしょう。
それでも、これまでの実績を見る限り、ニューバランスには目標を達成する力があると言えそうです。
直販拡大のリスク
ニューバランスは今後、直販の比率を高めていく方針です。利益率を改善できるという点で合理的な判断ですが、ナイキの失敗を繰り返すリスクもあります。
重要なのは、小売店との関係を維持できるかどうかです。CEOの発言を見る限り、ニューバランスは小売パートナーを完全に切り捨てるつもりはなく、むしろ直販で得た消費者の声を小売店との協力関係に活かしていく姿勢のようです。このバランス感覚を保ち続けられるかが、今後の成功を左右するでしょう。
ナイキの反撃はあるのか
ナイキは今、厳しい状況にありますが、長年培ってきたブランド力と財務基盤は依然として強固です。新しいCEOのエリオット・ヒル氏がどのような戦略を打ち出すかが注目されています。
ナイキが戦略を修正し、小売店との関係を再構築したり、製品開発に再び力を入れたりすれば、失った市場を取り戻す可能性は十分にあります。ニューバランスにとっては、この先も油断できない状況が続くでしょう。
競争のルールが変わった
ニューバランスとナイキの明暗が示しているのは、スポーツシューズ市場における 「競争のルールが変わった」 ということです。
昔は、機能性や性能が一番重要でした。しかし今は、ファッション性も同じくらい、あるいはそれ以上に大切になっています。また、直販だけに頼るのも、小売店だけに頼るのも最適解ではなく、両方をうまく組み合わせることが求められています。さらに、SNSを中心とした文化的なトレンドに素早く対応する力も必要です。
こうした新しい競争環境に適応できるブランドが、これからの時代を勝ち抜いていくのでしょう。
まとめ:市場の新しい秩序
ニューバランスの急成長とナイキの苦戦は、一時的な出来事ではありません。スポーツシューズ業界の構造そのものが変化していることを示しています。
消費者は以前ほどブランドに固執しなくなり、製品の質やブランド体験が直接的に購買行動に影響する時代になりました。ナイキのような大手でも、戦略を誤れば市場シェアを失います。逆に、ニューバランスのように適切な戦略を取れば、急成長することも可能なのです。
ニューバランスの100億ドル達成は現実的な目標であり、同社の存在感は今後さらに高まっていくでしょう。一方で、ナイキの復活にはまだ時間がかかりそうですが、長期的なブランド価値は依然として高く、今後の戦略次第では巻き返しも十分に考えられます。
また、非上場企業であることの強みも改めて認識される事例となりました。短期的な業績プレッシャーから解放されることが、長期的な成功につながることを、ニューバランスは証明しています。
スポーツシューズ市場は多様化が進み、様々なブランドにチャンスがある時代になっています。消費者にとっては選択肢が増えて嬉しい状況ですし、私たちはこれからも、各ブランドがどのような戦略で競争していくのか、興味深く見守っていけそうですね。
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