
海底ケーブルがインターネットを支える仕組み|2025年11月最新版
はじめに:私たちの生活を支える「見えないインフラ」
インターネットを使うとき、動画を見るとき、海外の友人とメッセージをやりとりするとき――その裏側で何が起きているか、考えたことはありますか?
実は、世界中のインターネット通信の 「95%以上」 が、海の底に敷かれたケーブルを通じて行われています。衛星通信が主役だと思われがちですが、衛星が担うのはわずか数パーセント。私たちの生活や経済活動を支える本当の主役は、目に見えない海底ケーブルなのです。
近年では、Google、Meta、Amazonといった巨大テック企業が数十億ドル規模の投資を行い、この海底インフラの拡充に力を入れています。AIやクラウドサービスの急成長にともない、海底ケーブルの重要性はさらに高まっているのです。
この記事では、海底ケーブルがどのような仕組みで世界を繋いでいるのか、なぜこれほど重要なのか、そして今どんな変化が起きているのかを、できるだけわかりやすく解説していきます。
海底ケーブルとは?世界のインターネットを支える巨大インフラ
世界のデータ通信の99%を担う海底ケーブル
海底ケーブルとは、文字通り海の底に敷設された通信用のケーブルのことです。電話やインターネット、金融取引、企業間のデータ通信など、国境を越えるほぼすべてのデジタル情報がこのケーブルを通って行き来しています。
驚くべきことに、国際的なデータ通信の 約99% が海底ケーブル経由で行われているという調査結果があります。衛星通信は全体のわずか 0.5〜5%程度 。衛星は遅延が大きく、コストも高く、データ容量にも限界があるため、主に遠隔地や緊急時の通信手段として使われています。
私たちがスマートフォンで海外のウェブサイトを見るとき、海外の取引先とビデオ会議をするとき、その情報は実は何千キロも離れた海底を通って届いているのです。
総延長160万km、地球を40周する距離
現在、世界中の海底には 約160万km(100万マイル) もの長さのケーブルが敷かれています。これは地球を 約40周 する距離に相当します。
主要な海底ケーブル製造メーカーの一つ、アルカテル・サブマリン・ネットワークス社は、設立以来 85万km以上 のケーブルを製造し、現在も 20万マイル以上 のケーブルをメンテナンスしています。
これほど巨大なインフラが、私たちの目に見えない海の底で、日々世界中の情報を運び続けているのです。
1日10兆ドルの経済取引を支える
海底ケーブルは単なるインターネット通信だけでなく、世界経済の血液とも言える金融取引も支えています。
推定によれば、海底ケーブルを通じて 1日あたり10兆ドル もの経済取引が行われています。これには以下のような取引が含まれます。
- 国際的な決済や送金
- 株式市場や為替市場での取引
- 企業間の商取引
- クラウドサービスやデータ転送
SWIFT(国際銀行間通信協会)のような世界的な金融システムも、この海底ケーブルインフラに依存しています。もしケーブルが寸断されれば、世界経済に深刻な影響が出る可能性があるのです。
海底ケーブルの仕組みと驚きの技術力
数百テラビット毎秒の超高速データ伝送
現代の海底ケーブルは、想像を超える速度でデータを伝送できます。最新のケーブルシステムでは、 数百テラビット毎秒 という驚異的な容量でデータを送ることが可能です。
わかりやすく言うと、1本のケーブルで 全世界の人々が同時に通話できる ほどの通信容量があります。2012年の時点ですでに 100Gbps の大西洋横断伝送が実証されており、現在では 数十テラビット毎秒 の転送が当たり前になっています。
最新技術では 「空間分割多重化(SDM)」 という手法が使われ、一つのケーブルに 24組もの光ファイバーペア を収めることもあります。これにより、より多くのデータを同時に送受信できるようになっています。
ケーブルの構造:髪の毛ほどの細さの光ファイバー
海底ケーブルは、いくつもの層が重なった複雑な構造をしています。中心には 髪の毛ほどの細さの光ファイバー があり、ここを光の信号が通ってデータが伝わります。
ケーブルの主な構造は以下の通りです。
- 光ファイバー:データを光信号として伝える中心部分
- 銅管:リピーター(中継器)に電力を供給するための層
- ポリエチレン絶縁層:ケーブルを水や圧力から守る層
- 鋼線アーマー(保護層):外部からの衝撃や損傷を防ぐ層
深海用のケーブルは比較的軽量で、直径 約25mm 、重さは 1km当たり約1.4トン です。一方、浅い海や沿岸部では船の錨(いかり)や漁業活動による損傷リスクが高いため、 二重アーマーケーブル という厚みのある保護構造が使われています。
リピーター(中継器)で信号を増幅
光信号は長距離を伝わるうちに徐々に弱くなってしまいます。そのため、海底ケーブルには 50〜100km(約50〜62マイル)ごと に リピーター(中継器) と呼ばれる装置が設置されています。
リピーターは信号を再び増幅し、減衰(信号が弱くなること)を防ぎます。現在は 「エルビウム添加ファイバーアンプ(EDFA)」 という技術が使われ、効率的に信号を強化しています。
このリピーターがあるおかげで、何千キロも離れた場所まで、安定した通信が可能になっているのです。
テクノロジー大手が投資する理由とプロジェクト事例
投資額は2倍以上に増加、2025〜2027年で130億ドル
近年、海底ケーブルへの投資が急激に増加しています。 2025年から2027年 にかけて、新規海底ケーブルプロジェクトへの投資額は 約130億ドル に達すると予測されています。これは 2022〜2024年の投資額のほぼ2倍 に相当します。
市場全体でも、 2016〜2017年には年間20億ドル程度 だった投資額が、現在では 年間50〜60億ドル にまで成長しています。この背景には、AI技術やクラウドサービスの急速な発展があります。
Meta(Facebook):世界最長ケーブル「Project Waterworth」
Metaは 2010年代半ば から海底ケーブルへの投資を開始し、現在では 20本以上 のケーブルプロジェクトに関わっています。
代表的なプロジェクトには以下があります。
「2Africa」プロジェクト
– 延長: 28,000マイル(約45,000km)
– 接続地域: 3大陸(アフリカ、ヨーロッパ、アジア)
– 費用: 10億ドル以上
「Project Waterworth」
– 延長: 31,000マイル(約50,000km)
– 世界最長 の海底ケーブルとなる予定
– 費用: 数十億ドル規模
Metaはこれらのケーブルを通じて、世界中のユーザーに安定したサービスを提供し、動画や写真などの大容量データをスムーズに配信できる環境を整えています。
Google:30本以上のケーブルに投資
Googleは 30本以上 の海底ケーブルプロジェクトに参加しており、独自ケーブルの建設だけでなく、他社との共同プロジェクト(コンソーシアム)にも積極的に関わっています。
GoogleのクラウドサービスやYouTube、検索エンジンといったサービスは、世界中で膨大なデータ通信を必要とします。そのため、自社で海底ケーブルを所有・運営することで、通信速度や品質を自らコントロールできる体制を築いています。
AI技術の発展により、データセンター間での大規模な情報のやりとりが増えており、Googleはこのインフラ投資をさらに強化しています。
Amazon(AWS):初の独自ケーブル「FastNet」
Amazon Web Services(AWS)は、クラウドサービスの世界的リーダーとして、これまで 「Brusa」「Tannat」「Havfrue」 などのケーブルプロジェクトに参加してきました。
そして 2024年11月 、Amazonは初の独自海底ケーブル 「FastNet」 を発表しました。このケーブルは アメリカのメリーランド州とアイルランド を結び、AWS利用者により高速で安定した接続を提供します。
Amazonの狙いは、世界中のデータセンターを高速ネットワークで結び、クラウドサービスの競争力をさらに高めることにあります。
Microsoft:紅海でのケーブル切断で影響を経験
Microsoftも海底ケーブルプロジェクトに積極的に投資していますが、 2023年9月 には貴重な教訓を得る出来事がありました。
紅海で海底ケーブルが切断されたことにより、Microsoftの 「Azure」クラウドサービス に影響が発生。アジアと中東のユーザーが 遅延の増加 や 性能の低下 を経験しました。
この出来事は、海底ケーブルがいかに重要で、かつ脆弱なインフラであるかを改めて示しました。大手企業が複数のケーブルルートを確保し、冗長性(バックアップ体制)を高める理由がここにあります。
海底ケーブルの製造と敷設、メンテナンスの裏側
世界4大メーカーが市場を支配
海底ケーブルの製造は高度な技術を必要とするため、世界でも限られた企業しか手がけていません。現在の主要メーカーは以下の4社です。
- SubCom(アメリカ)
- NEC(日本)
- Alcatel Submarine Networks(ASN)(フランス)
- HMN Tech(中国)
この中でもASNは 165年以上 の歴史を持つ世界最大の海底通信ケーブルメーカーです。 2024年 には、フランス政府がNokiaからASNの 株式80% を取得しました。これは海底ケーブルが国家の重要インフラとして位置づけられている証拠でもあります。
敷設には専用船と高度な技術が必要
海底ケーブルを敷設するには、専用のケーブル敷設船が使われます。船にはケーブルを収納する巨大なタンクがあり、船が進みながら少しずつケーブルを海底に沈めていきます。
敷設作業は非常に繊細で、海底の地形や水深、海流の影響を考慮しながら進めなければなりません。浅い海域では、漁船の網や船の錨による損傷を避けるため、ケーブルを海底に埋設する作業も行われます。
また、リピーターを正確な位置に設置したり、複数のケーブルを接続したりする作業も、高度な技術と経験が求められます。
メンテナンスと修理:切断事故への対応
海底ケーブルは頑丈に作られていますが、それでも切断事故は起こります。主な原因は以下の通りです。
- 船の錨(いかり)による損傷
- 漁業活動(特にトロール漁)
- 海底地震や海底地すべり
- 海流による摩耗
ケーブルが切断されると、専用の修理船が現場に向かい、損傷箇所を引き上げて修理します。修理には数日から数週間かかることもあり、その間は他のケーブルに迂回させるなどして通信を維持します。
このような事故に備え、主要な通信ルートには複数のケーブルが並行して敷設されており、万が一の際にも通信が途絶えないような冗長性が確保されています。
まとめ:海底ケーブルがこれからのデジタル社会を支える
海底ケーブルは、私たちの生活に欠かせないインターネットや経済活動を支える、まさに 「デジタル社会の血管」 です。世界中のデータ通信の 99% を担い、 1日10兆ドル もの経済取引を可能にしている巨大インフラです。
Google、Meta、Amazon、Microsoftといったテクノロジー大手が、今後3年間で 130億ドル もの投資を行う背景には、AIやクラウドサービスの急成長があります。これからの時代、海底ケーブルの重要性はますます高まっていくでしょう。
一方で、ケーブルの切断リスクや国家間の緊張による影響など、課題も存在します。だからこそ、複数のケーブルルートを確保し、メンテナンス体制を強化することが重要になっています。
私たちが当たり前のように使っているインターネットの裏側には、こうした壮大なインフラと、それを支える技術者たちの努力があります。この記事を通じて、海底ケーブルという 「見えないインフラ」 の存在を少しでも身近に感じていただけたら幸いです。
これからも、海底ケーブルは世界を繋ぎ続け、私たちのデジタルライフを支えていくことでしょう。
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